シンガポールの映画・テレビ事情
シンガポールには映画館がたくさんあり、夜や休日は、たくさんの客でにぎわっています。この映画館に関して、シンガポールと日本とで決定的に異なっていることが二つあります。一つは、封切りが映画が、製作された本国とほぼ同時に行われるということです。その理由は、当然のことながら字幕スーパーを入れる手間が全くないということであり、外国の文化がすぐ入ってくるという点でもニ言語主義というのは成功しているのでしょうね。次が、料金が確か10シンガポールドルくらいということで、非常に安いことです。なお、シンガポールの映画館は全席指定席が普通のようです。
字幕スーパーが必要ないのはテレビも同じです。シンガポールにもテレビ局が数局あります。もっともポピュラーなのは、英語チャンネルと中国語チャンネルの2チャンネルを持つシンガポールテレビ社です。英語チャンネルでは独自に制作したニュース番組やドラマなどの放送も行っていますが、アメリカやオーストラリアなどで制作されたドラマや映画などが毎日のように放送されています。これらは、映画同様、おそらく制作された国での放送時期とかなり近い時期に放送されているのではないかと思われます。
一方、中国語の放送局は完全に中国系シンガポール人だけを対象としたチャンネルです。このチャンネルでも、独自に制作されたニュース番組やドラマが放送されています。ドラマに関しては、英語チャンネルよりもかなり力を入れているようです。また、台湾や香港で制作されたドラマも頻繁に放送されています。なお、海外で制作された番組では、同じ中国語でもシンガポールでは北京語が標準語ですが、香港では広東語が一般的であるなど北京語の放送ではないために、字幕スーパーが入っているものがあるのが面白いところです。また、このチャンネルでは、歌番組も数多く放送されていますが、シンガポールでは、シンガポール人の芸能人はあまり多くないようで、人気のある人はせいぜい数十人いるかなあという感じです。しかも、テレビドラマの俳優兼歌手兼タレントという感じで、なんでもやっています。人が少ないので、テレビに出るのはいつも同じ顔ぶれです。
歌手、ミュージシャン専門の人で人気のある人はいないようで、代わりに香港・台湾の歌手が非常に人気があります。このあたりも、シンガポールが芸術にはあまり力を入れず、数学、科学などの実務的な学問中心の教育を進めてきた影響だろうかと考えさせられるところです。

なお、シンガポールの人たち、特に中国系の人たちは歌が好きなようで、カラオケも非常に人気があり、シンガポールの至る所に「KTV」という看板がかかったカラオケがあります(KTVの「K」は、「カラオケ」の「K」でしょうか)。もちろんカラオケは中国語のものですので、我々が聞いても全くわかりません。 テレビに話を戻すと、このシンガポールテレビ社の他にもいくつかチャンネルがあり、そのうち一つは、様々な民族向けの番組を主に放送しているチャンネルで、ここでは、週に数回日本のニュース番組や、テレビドラマも放送されているのですが、インドのタミール語の放送が多く、特に土曜、日曜日には、ほぼ一日中インド製と思われるタミール語の映画が放送されています。
このインドの映画というのが、少し前に日本でも「ムトゥ 踊るマハラジャ」という映画が上映されたので、ご存知の方も多いと思いますが、すべてあの調子で、内容はすべてが勧善懲悪もので、ハンサムな主人公が美しいインドの娘と恋に落ちながら、悪者を退治するというものです(言葉が正確にはわからないのですが、たぶん)。日本の時代劇のように結末がハッピーエンドだとわかっているので、安心して見られますが、たくさん見るとだんだん飽きてきます。
これらの映画の大部分は、ミュージカルのような歌と踊りで構成され、いかにも「インドだぞ」という踊りと、ヒロインの妙に甲高くてビブラートの効いた歌が印象的です。このヒロインの女性は、どの映画でもとても美しく、スタイルもすばらしいのですが、主人公である男性は、日本人の目から見ると、中肉中背といった感じで、ちょっと太りすぎではないかと思われるくらいで、年も少し取っているかなという感じです。
しかも、どの映画を見ても同じ人が主人公になっているようで、これは、インド人に慣れていないために、皆同じ顔に見えるのだろうと思っていたのですが、どうもそうではなく、インドではものすごく有名な男優がいて、映画の多くに彼が主人公で出演しているらしいということで、結局皆同一人物のようでした。私も暇なときはよくこのインド映画を見ていました。もちろん、英語の字幕スーパーは入っているのですが、それを見なくても、見ていると大体ストーリーはわかるし、踊りや歌は、見ているだけで楽しいものでした。 ここで、お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、英語、中国語、そしてインドのタミール語の放送があるのなら、シンガポールで中国系に次ぐ民族であるマレー系の人向けのチャンネルはないのかということになりますが、シンガポールでは隣のマレーシアの放送が見られ、マレーシアのチャンネルは、もちろんほとんどマレー語の放送なので、ちょうど3民族のためのチャンネルがあるということになります。
なお、シンガポールでは年に数回、大統領のテレビ演説や、独立記念日の放送など、全国民向けに放送される重要な番組があります。この場合には、例えば、二つのチャンネルで全く同じ放送を英語と中国語で行うというようなこともあり、政府もかなり気を遣っているようです。
また、シンガポールではこれら一般の放送のほか、ケーブルテレビ放送が非常にポピュラーです。ケーブルテレビは10以上のチャンネルを持っており、そのうちの一つにNHKの衛星放送があります。他の東南アジア諸国では、NHKの衛星放送をパラボラアンテナで受信できるのが一般的で、大きなパラボラアンテナを立てているホテルに宿泊するとNHKを見ることができます。ところが、シンガポールでは衛星放送を直接受信することは法律で禁止されているため見ることができなかったので、他の国に出張した時にホテルでNHKを見るのを楽しみにしていたものでした。
このケーブルテレビに加入すると、NHKだけとは言え、日本語の放送が朝から夜中まで、1日中見られることになります。ニュースはもちろん日本と同時に放送されますし、NHKの主な番組は大体見ることができました。わたしも、2年間のシンガポール生活のうち最後の半年くらいはこのケーブルテレビに加入しました。チャンネルはたくさんあるものの、ほとんど毎日NHKの放送だけを見るということになってしまいました。
残念だったのは、ちょうどシンガポールに住んでいたときに長野冬季オリンピックがあったのですが、NHK衛星放送でオリンピックの放送が入っても、NHKはオリンピックの映像を日本国外で放送する権利を持たないため、音声しか流れず、絵は関係のない静止画が入っていてまったく見ることができませんでした。しかも、冬季オリンピックは、南国シンガポールの人には関心がないためか、シンガポールのテレビに入ることもなくて、長野オリンピックは私(とシンガポール在住日本人)にとっては遠い世界の出来事のようでした。なお、在住日本人の間では、日本のテレビドラマのビデオが出回っており、私の住んでいたコンドミニアムの日本人家庭でも各家庭が日本の親戚に録画してもらったり、一時帰国したときに録画したビデオをお互いに回覧して見ていました。

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